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仙台地方裁判所 平成5年(ワ)110号 判決 1996年2月28日

原告

エヌイーシー商品リース株式会社

右代表者代表取締役

谷本祐之介

右訴訟代理人弁護士

香高茂

被告

氏家顯

鎌田信弘

右両名訴訟代理人弁護士

千田功平

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、連帯して金四九三万七五一一円及びこれに対する平成四年九月一〇日から支払済みまで年18.25パーセントの割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(一)  原告は、平成二年一〇月一五日、甲野太郎との間において、次のような内容のリース契約(以下「本件リース契約」という。)を締結した。

(1) 原告は、別紙「リース契約の内容」記載のリース物件(以下「本件リース物件」という。)を、同記載のリース期間、リース料で組合に使用させる。

(2) 岩手中央水産加工企業組合(以下「組合」という。)は、リース料を、第一回目は本件リース物件借受書交付日に、第二回以降は毎月八日限り、原告仙台営業所に持参又は送金して支払う。

(3) 本件リース物件の所有権は原告が留保する。

(4) 組合がリース料支払債務を履行しない場合は、支払うべき金額に対し、支払期日の翌日から完済まで年18.25パーセントの割合による損害金を支払う。

(5) 組合が支払を怠るなど契約に違反したときは、組合のすべての債務は原告が請求した時に期限が到来したものとみなす。

(二)  甲野太郎は、本件リース契約締結の際、組合のためにすることを示した。

(三)(1)  組合の代表理事は甲野譲子(以下「譲子」という。)であったが、譲子は組合の経営に何ら関与することなく、専ら譲子の夫である甲野太郎が経営に当たっていた。

したがって、本件リース契約は、代表理事である譲子の包括的な承諾の下に、甲野太郎が組合を代表して締結したものである。

(2) 本件リース契約締結時に甲野太郎に契約を締結する権限がなかったとしても、契約締結後間もなく甲野太郎のみが組合の実質的な経営者となり、甲野太郎は本件リース契約を追認した。

(3) 組合は、平成五年九月二二日、甲野太郎を代表者として同日付けの準備書面を裁判所に提出して、本件リース契約を追認した。

(四)  仮に、本件リース契約が組合との間で有効に成立していないとすれば、本件リース契約は甲野太郎との間で成立した。

2  被告氏家顯(以下「被告氏家」という。)及び同鎌田信弘(以下「被告鎌田」という。)は、平成二年一〇月一五日、原告に対し、組合が本件リース契約に基づいて原告に対して負担する債務を連帯保証した。

3  被告らは、組合の従業員であるが、甲野太郎が組合の実質的な経営者であることを承認していたものであり、本件リース契約の契約書に「○○中央水産加工企業組合理事長甲野太郎」と記載されていることを認識した上で連帯保証人の署名押印をした。

また、被告らは、平成五年九月二二日、甲野太郎とともに裁判所に出頭し、甲野太郎を組合の代表者と認めて、同日付け準備書面に署名押印した。

したがって、被告らが、組合の代表者が譲子であり、甲野太郎には代表権がないから、本件リース契約は組合との間で成立しておらず、被告らの連帯保証債務は発生しないと主張することは信義に反し許されず、被告らは、仮に組合が本件リース契約に基づく債務を負わないとしても、甲野太郎に代表権が存在していたならば組合が負うべき債務について連帯保証人としての責任を負う。

また、仮に組合との間で本件リース契約が成立していないとしても、甲野太郎との間で本件リース契約は有効に成立し、被告らは甲野太郎の債務を連帯保証したものである。

4  原告は、被告らに対し、平成四年九月九日に到達した書面で同年一月支払分以降の残金四九三万七五一一円を支払うよう請求した。

5  よって、原告は、被告らに対し、本件リース契約に基づく残リース料四九三万七五一一円及びこれに対する期限の利益喪失の日の翌日である平成四年九月一〇日から支払済みまで年18.25パーセントの割合による遅延損害金を連帯して支払うよう求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)の事実のうち、甲野太郎が原告と本件リース物件のリース契約を締結したことは認めるが、その内容は知らない。(二)の事実は認める。(三)、(四)は争う。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実は否認し、その主張は争う。

4  同4の事実は認める。

三  抗弁

1  (本件リース物件の引渡しの欠如と原告の悪意又は過失)

(一) 組合は、本件リース物件の引渡しを受けていない。

本件リース契約は、組合と有限会社甲田屋(以下「甲田屋」という。)の甲田一郎(以下「甲田」という。)との共謀による空リースである。

(二) 原告は、本件リース物件の引渡しがされていないことを知っていたか、知らなかったとしても、以下の事情によれば、知らなかったことにつき過失がある。

(1) 原告の担当者であるB(以下「B」という。)は、本件リース契約締結の際に立ち会い、本件リース物件がその時点で納入されていないことを現場で確認していた。

(2) Bは、平成二年一〇月一七日に本件リース物件が搬入されたことを甲田から聞いたと言うが、本件リース物件の大きさと、組合の店舗内の状況、搬入方法からみて、本件リース物件を組合に搬入するというのは不自然であり、Bは引渡しがされていないことを知り得た。

2  (錯誤)

被告らは、本件リース物件が組合に引き渡されるであろうことを契約締結の動機として表示して連帯保証したが、本件は空リースであり、本件リース物件は組合に引き渡されなかったのであるから、被告らの連帯保証の意思表示は錯誤により無効である。

四  抗弁に対する認否及び主張

1(一)  抗弁1(一)の事実は否認する。

原告は、組合に対し、本件リース物件を引き渡しており、サプライヤーであるEC技研こと小山正彦の下請である甲田屋の甲田が平成二年一〇月一七日に組合の店舗に納入した。

(二)  同(二)は争う。

原告には、リース契約上、リース物件を引き渡す義務はないし、リース物件の存在を確認すべき義務もない。したがって、リース物件が存在することを確認する義務もない。

本件においては、原告は、組合からリース物件借受書(以下「借受書」という。)の交付を受け、甲田屋の甲田から納入設置した旨の連絡を受け、リース料も当初は順調に支払われていたのであるから、リース物件が不存在であることを疑うことはあり得ない。

2(一)  抗弁2の事実は否認する。

(二)  リース契約は、リース物件購入資金を融資するものであり、その資金がディーラーとユーザーとの間で別個の用途に使用されたものであっても、なおリース契約としては有効である。

リース契約のユーザーの債務を連帯保証するということは、リース物件購入資金の融資に対して、その返済を連帯保証することを意味している。したがって、融資されたリース物件購入資金が、当初の目的とは別個の目的に使用された場合であっても、ユーザーにはリース料支払義務があり、連帯保証人は連帯保証債務を免れることはできない。

(三)  被告らは、組合の上司から連帯保証を求められて、何ら連帯保証の内容を確認することなく連帯保証したものであって、リース物件が納入設置されるか否かは意思表示の要素となっていない。

また、被告らの動機も何ら表示されていない。被告らは、リース物件である本件リース物件の納入設置についてはほとんど無関心という姿勢であったのであり、動機が表示されたことはない。

五  再抗弁

1  本件リース契約では、借受書の交付をもって借受日に物件の売渡は完了することとされているところ、組合は、原告に対し、借受書を交付し、原告は、借受書の交付を受けた後の平成二年一〇月三一日、サプライヤーのEC技研こと小山正彦に対し、リース物件の売買代金四五一万九六四〇円を銀行口座に振り込む方法により支払った。

したがって、借受書の交付後にリース物件の引渡しの欠如を主張することは信義則に反し許されない。

2  (抗弁2に対して)

被告らは、契約締結に際し、本件リース物件がいかなるものか、どのような使用目的を有するのか、支払リース料はいくらになるのか、本件リース物件の導入により収益がどの程度上昇するのか、納入設置の場所をどこにするのかといった具体的なことについては一切知ろうともしなかった。したがって、錯誤があったとしても、錯誤に陥ったことにつき重過失がある。

六  再抗弁に対する否認

1  再抗弁1の事実のうち、組合が借受書を交付したことは否認する。

借受書の発行者は組合の理事長「甲野太郎」となっているが、組合の理事長は甲野太郎ではなく、譲子である。したがって、組合が借受書を交付したものではなく、被告らがリース物件の引渡しの欠如を主張することは信義則に反するものではない。

2  同2は争う。

第三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因について

1  甲第一号証、第三二ないし第三四号証、乙第四、第五、第九ないし第一一号証、Bの証言(第一、二回)、被告氏家及び同鎌田各本人尋問の結果並びに弁論の全主旨によれば、次の事実が認められる。

(一)  組合は、A(以下「A」という。)を設立発起人代表として平成二年九月六日付けで岩手県知事に対して設立認可の申請をし、同月一二日付けで認可(中小企業協同組合法二七条の二第一項)を受けて、同月一三日に設立登記された企業組合(同法九条の一〇)であり、その代表理事は譲子であった。

(二)  本件リース契約は、甲野太郎と甲田屋との間で交渉が進められたものであったが、甲田屋は原告とはそれまでに取引関係がなかったため、甲田屋からの依頼により原告と取引関係のあったEC技研が形式上は売主(サプライヤー)となり、リース物件はすべて甲田屋が問屋から直接仕入れて組合に納入するということになっていたものであった。

(三)  Bは、平成二年一〇月一六日、本件リース契約の契約書作成手続をするために、甲田屋の甲田、EC技研の藤根義久とともに、組合の事務所に赴いた。

(四)  被告氏家は、同日午前八時三〇分ころ、組合の事務所に出勤したところ、組合の専務理事であったAから、原告とのリース契約の連帯保証人になるよう求められた。被告氏家は、Aに、家族と相談してからでないと返事ができないと答えると、家族とすぐに連絡を取るよう言われ、家族と連絡をとった結果、連帯保証人となることを承諾した。被告氏家は、実印と印鑑登録証(カード)を取りに家に一旦戻り、東和町役場で印鑑登録証明書の交付を受けて、組合の事務所に戻り、契約書の連帯保証人欄に署名捺印した。

(五)  被告鎌田は、翌一七日、Aから、原告とリース契約を締結するについて被告氏家の連帯保証人になってもらったが、連帯保証人がもう一人必要なので、連帯保証人になるよう求められ、これを承諾し、実印と印鑑登録証(カード)を取りに家に戻り、東和町役場で印鑑登録証明書の交付を受けて、組合の事務所に戻り、契約書の連帯保証人欄に署名捺印した。

なお、右認定事実に関して、Bは、被告鎌田は前日の契約の際にポケベルで呼び出されて事務所に来ていたと証言(第一、二回)し、藤根義久の供述書(甲第三四号証)にも、「鎌田さんが電話か無線で呼び出されて署名したと記憶しています。」との記載がある。しかし、Bの証言は「裁判の前に会った気がする」などとかなり曖昧である上、被告鎌田が東和町役場で印鑑登録証明書の交付を受けたのが一〇月一七日であること、一六日には署名をしていないことは証拠(甲第三三号証、乙第一〇号証)から明らかであり、被告鎌田がわざわざポケベルで呼び出されたのであれば、被告氏家と同様に、実印と印鑑登録証明書を用意させた上で、その日に署名捺印という進展になるのが自然と思われるから、Bの証言は採用できない。

2  甲第一号証及び被告氏家本人尋問の結果によれば、契約書の賃借人の欄には、「岩手中央水産加工企業組合理事長 甲野太郎」とゴム印により記名されているが、「甲野太郎」の部分はその他の部分とは別のゴム印で押捺されたものであることが認められる。

被告氏家は、これらのゴム印や組合の理事長印を押捺したのはAであり、甲野太郎は契約書を作成したときには立ち会ってはいなかったと供述するが、Bは、これらの押印をしたのは甲野太郎であると証言(第一、二回)する。

この点については、いずれが真実であるかにわかに判断し難いが、Bの証言の信用性については前記のとおり疑問な点もあることからすると、被告氏家の供述を排斥して、甲野太郎が契約に立ち会って押捺したものと認めることは困難である。

しかしながら、Bの証言(第一、二回)によれば、本件リース契約に関しては、当初は代表者を譲子として組合から申込みがあったが、保証人が必要であると伝えると、次には代表者を甲野太郎とし、保証人を被告氏家と同鎌田として申込みがあったこと、甲野太郎から、組合の代表者は譲子だが、実際には甲野太郎がやっており、いずれは甲野太郎が理事長になるとの説明があったことが認められる。そうであれば、本件リース契約は、甲野太郎を代表者として締結することにしていたものであり、甲野太郎が契約書作成時に立ち会わず、Aが契約書に甲野太郎のゴム印や理事長印を押捺したのだとしても、Aは甲野太郎の指示に従ってこれらを行ったものと認めることができるから、甲野太郎が組合の代表者として本件リース契約を締結する意思表示をしたものと認めることができる。

そして、甲第一号証によれば、本件リース契約には、請求原因1(一)(1)ないし(5)の約定があることが認められる。

3  原告は、請求原因1(三)(1)のとおり、本件リース契約は、代表理事である譲子の包括的な承諾の下に、甲野太郎が組合を代表して締結したものであると主張する。

しかしながら、組合の理事については、中小企業等協同組合法四二条により民法五五条が準用されるから、代表理事は、他人に特定の行為の代理を委任することができるにすぎず、包括的に代表権の行使を委任することはできないから、仮に譲子の包括的な承諾があったとしても、甲野太郎が譲子を代理して代表権を行使することはできないと解される。

原告は、また、請求原因1(三)(2)、(3)のとおり、契約締結後間もなく甲野太郎のみが組合の実質的経営者となったこと、組合が甲野太郎を代表者として準備書面を当裁判所に提出したことを理由に組合が本件リース契約を追認したと主張するが、組合の代表理事は譲子であるから、譲子が追認の意思表示をしたのでなければ組合が追認したことにはならない。

原告は、また、本件リース契約が組合との間で有効に成立していないとすれば、本件リース契約は甲野太郎との間で成立したとも主張するが、甲野太郎は組合の代表者として組合のためにすることを示して契約締結の意思表示をしたのであるから、それが無権代理であったとすれば民法一一七条一項による責任を問うことはできるが、原告と甲野太郎との間でリース契約が成立することにはならない。

4  争いのない事実及び前記認定の事実によれば、被告氏家は平成二年一〇月一六日、被告鎌田は同月一七日、それぞれ本件リース契約の契約書に連帯保証人として署名捺印し、原告に対し、組合が本件リース契約に基づいて負担する債務を連帯保証したものと認められる。

5  次に、請求原因3についてみる。

被告氏家及び同鎌田各本人尋問の結果によれば、組合の代表理事は譲子であったが、譲子は名目的な代表者であり、組合の設立当初はAが組合の実質的な経営に当たり、平成二年一二月ころにAと甲野太郎がもめごとを起こし、Aが組合をやめてからは甲野太郎が主として組合の実質的な経営に当たっていたこと、被告氏家が契約書に連帯保証人として署名捺印した際には、まだ賃借人欄には組合の印や甲野太郎のゴム印は押捺されていなかったが、被告氏家は、組合の連帯保証人となる意思で署名押印したこと、被告氏家は、Aが理事長欄に誰のゴム印を押すのかはよく見ていなかったこと、被告鎌田は、契約書の賃借人欄に「岩手中央水産加工企業組合理事長甲野太郎」と記載されていることを認識しながら、特におかしいとも思わずに連帯保証人として署名捺印したことが認められる。

右事実によれば、被告らは、いずれも、譲子が組合の名目的な代表者にすぎず、本件リース契約締結の判断をしたのはAないしは甲野太郎であることを認識しつつ、組合の連帯保証人となる意思で連帯保証契約を締結したものであって、このような事実関係の下において、被告らが、本訴において、甲野太郎の代理権の不存在を主張して主たる債務の成立を否定し、ひいては連帯保証債務の成立を否定することは、信義則上許されないものと解するのが相当である。したがって、被告らの右主張が許されない結果として、被告らは、組合との間で本件リース契約が成立したとすれば組合が負うべきであった債務について連帯保証債務を負うものというべきである。

6  請求原因4の事実は、当事者間に争いがない。

二  抗弁1及びこれに対する再抗弁1について

1  甲第二、第九、第二二、第二三号証、Bの証言(第一、二回)によれば、組合から理事長甲野太郎名で本件リース物件の引渡しを受けた旨の借受書が原告に郵送されたこと、原告は、借受書の交付を受けた後の平成二年一〇月三一日、サプライヤーのEC技研こと小山正彦に対し、リース物件の売買代金四五一万九六四〇円を銀行口座に振り込む方法により支払ったこと、甲田の供述録取書には、本件リース物件を平成二年一〇月一六日に組合の店舗に納入した、その際被告氏家や同鎌田にも手伝ってもらい、店舗の扉を外して搬入したとの記載があること、右供述録取書は原告代理人の香高弁護士がBとともに甲田を訪ねて、事情を聴取して作成したものであるが、甲田は同弁護士に契約日の翌日に本件リース物件を納入したと述べたところ、同弁護士が供述録取書作成の際に契約日を契約書に記載のある同月一五日と理解して納入日を同月一六日と記載したものであること、Bは、同月一七日に甲田から電話で本件リース物件を納入したと聞いたこと、以上の事実が認められる。

しかしながら、被告らは、本人尋問において、本件リース物件が組合の店舗に納入されたことはなかったと供述する。そして、被告氏家は、平成二年一〇月中か一一月初めころ、Aから、本件リース契約は審査の段階ではねられてしまい、破棄になったと聞き、成立しなかったものと思っていた、平成四年六月ころ、Aが被告氏家が勤めているホテルに泊まりに来た際、Aから、本件リース契約はAと甲野太郎が甲田や原告の営業マンと組んで資金繰りのために空リースをしたものであり、リース物件を借りるつもりは全くなく、空リースのことは甲田も原告の営業マンも承知のことだったと聞いた、平成六年八月に偶然甲田と会い、甲田から本件リース契約についてAから聞いた話をしたところ、甲田はEC技研から受け取った金は全部甲野太郎が持って行き、自分は金は受け取っていない、空リースであることは原告の営業マンのBも承知のことであると言っていたと供述し、被告鎌田は、Aから、本件リース物件は組合事務所前にある組合が借りていた駐車場にプレハブ小屋を建てて、そこに設置すると聞いたが、駐車場にプレハブ小屋が建ったことはなく、平成四年一月に組合を辞めるまで本件リース物件を見たことはなかったと供述する。

被告らの以上の供述に、甲田が本訴において証人として採用され、再三呼出しを受けたにもかかわらず出頭しなかったこと、甲田屋が本件リース物件のような大型商品を問屋から本当に仕入れたのであれば、そのことを証する文書(注文書、領収書等)があるはずであるのに、そうした文書が証拠として提出されておらず、前記供述録取書にも本件リース物件の仕入れについて何ら言及されていないことを考え合わせれば、前記供述録取書の記載を信用することはできず、本件リース契約は甲野太郎と甲田が通謀してなした空リースであり、本件リース物件は組合に引き渡されてはいないものと認められる。

2  ところで、本件リース契約はいわゆるファイナンス・リース契約であると解されるところ、ファイナンス・リース契約は、物件の購入を希望するユーザーに代わって、リース業者が販売業者から物件を購入の上、ユーザーに長期間これを使用させ、右購入代金に金利等の諸経費を加えたものをリース料として回収する制度であり、その実体はユーザーに対する金融上の便宜を付与するものであるから、リース料の支払債務は契約の締結と同時にその金額について発生し、ユーザーに対して月々のリース料の支払という方式による期限の利益を与えるものにすぎず、また、リース物件の使用とリース料の支払とは対価関係に立つものではないというべきである。

もっとも、ファイナンス・リース契約においても、賃貸借契約という法形式が採用されているのであるから、賃貸借契約の要素があることを全く否定することはできず、リース業者はユーザーに対してリース物件の引渡義務を負い、リース物件の引渡しがない場合にはユーザーはリース料の支払を拒絶することができるものと解するのが相当である。

しかしながら、ユーザーがリース物件の引渡しを受けていないにもかかわらず、リース業者に借受証を交付し、ユーザーがこれに基づいてサプライヤーに売買代金を支払った場合には、ユーザーが自ら作成して交付した借受証の記載に反し、引渡しがないことを主張することは信義則上許されないものと解するのが相当である。

被告らは、原告が本件リース物件の引渡しがされていないことを知らなかったとしても、そのことにつき過失がある旨主張するが、ユーザーが借受証を交付していた場合には、自ら借受証を交付したものである以上、リース業者が引渡しがされていないことを知っていながらサプライヤーに売買代金を交付した場合でない限りは、引渡しがないことを主張することは信義則上許されず、リース料の支払義務を免れることはできないものと解するのが相当であるから、本件において、本件リース物件の引渡しがされていないことを知らなかったことにつき原告に過失があったか否かは問題とはならないというべきである。

3  本件においては、前記認定のとおり、組合から理事長甲野太郎名で本件リース物件の引渡しを受けた旨の借受書が原告に郵送され、原告は、借受書の交付を受けた後の平成二年一〇月三一日、サプライヤーのEC技研こと小山正彦に対し、リース物件の売買代金を支払ったことが認められ、また、前示のとおり、被告らが甲野太郎の代理権の不存在を主張することは信義則上許されないものと解されるから、理事長甲野太郎名の借受書が原告に交付された以上、原告が本件リース物件の引渡しがされていないことを知っていたのでない限りは、被告らが本件リース物件の引渡しがないことを主張することは信義則上許されないものと解される。

そこで、右の点についてみると、前記のとおり、被告氏家は、平成四年六月ころ、Aから、空リースのことは原告の営業マンのBも承知のことだったと聞いた、平成六年八月、甲田から、空リースであることはBも承知のことだったと聞いたと供述し、右供述自体は信用することができるものの、Bは空リースへの関与を否定する証言をしており、被告氏家もどのようにBが関与したのかについて具体的にA又は甲田から聞いたものではなく、他にBの関与を裏付けるような証拠もないから、Bが本件リース契約が空リースであることを知っていたと認めるには足りない。

したがって、結局、被告らの主張は理由がない。

三  抗弁2(錯誤)及びこれに対する再抗弁2について

1  連帯保証契約は、特定の債務を連帯保証する債務の成立を目的とする契約であるから、主たる債務がいかなる契約から生じるかは連帯保証契約の当然の前提をなし、連帯保証契約の内容となっているものである。主たる債務がいかなる契約から生じたかという債務の発生原因は、主たる債務者がその契約によって得た金融をどのように利用するか、他に連帯保証人がいるか、あるいは物的担保があるか否か、といった当然には連帯保証契約の内容とはなり得ない事情(いわゆる動機の錯誤に当たる事情)と同一視することはできない。

本件において、被告らが連帯保証人として署名捺印した契約書には、本件リース契約の内容が記載されており、これによれば、被告らが連帯保証する主たる債務を発生させる本件リース契約は、リース物件の引渡しが行われ、組合がリース料を支払うという態様のものであることが明らかであるから、主たる債務の発生原因が右のようなものであることは連帯保証契約の内容として契約書上明確に表示されているものということができる。

2  前示のとおり、本件においては、主たる債務である組合のリース料支払債務(被告らが甲野太郎の代理権の不存在を主張することが信義則上許されない結果として、被告らの連帯保証債務の前提として想定される主たる債務)は、本件リース契約の締結と同時に発生しているとはいえるものの、組合が本件リース物件の引渡しがないにもかかわらず、その支払を拒絶することができないのは、組合が借受証を原告に交付したからである。

したがって、被告らは、主たる債務について、リース物件の引渡しが行われ、組合がリース料を支払うという態様のものであると認識したのに、実際は、リース物件の引渡しはされないが、組合が借受証を交付することによってリース料の支払を拒絶し得ないものになるという態様のものであったものということができる。

3  そして、前記認定のとおり、被告らは、いずれも、本件リースがリース物件の引渡しがされない空リースであることを知らないで連帯保証したものと認められ、Aや甲野太郎がそのことを被告らに知らせなかったのは、そのことを知らせたならば、組合の従業員である被告らも容易には連帯保証人にならないだろうと考えたからであると推認されるから、被告らがそのことを知っていたならば、連帯保証人にはならなかったであろうと推認するのが相当であり、客観的にみても、通常人ならば連帯保証しなかったものと認めるのが相当である。

したがって、被告らの主たる債務の態様に関する前記の錯誤は、連帯保証の意思表示の要素の錯誤に該当すると認めるのが相当である。被告らは、動機の錯誤として主張しているが、右のとおり単なる動機の錯誤ではなく、意思表示の要素の錯誤に該当すると認めるのが相当であるから、動機が表示されていたか否かは問題とならない。

なお、リース契約の実体がユーザーに対する金融上の便宜を付与するものであるということから、空リースにおいても代金相当額の融資を受け、これに利息相当額を加えた金額を返還することに変わりはなく、リース物件の引渡しがない点に錯誤があったとしても、リース会社から金融の利益を得て、これをリース料として割賦返済することについて保証する意思がある以上、保証人の意思表示の要素に錯誤があるとはいえないとする見解もあり、原告もほぼ同旨と解される主張をしている。しかしながら、本件において、甲野太郎らが空リースを仕組んだのは、金融機関から金銭消費貸借契約の締結により融資を受けるといった通常の手段をとることができないために、空リースという手段によって当面の資金を得ようとしたものと推認されるのである。正常なリース契約に基づき、特定の設備に投資し、それを使用収益しながら営業活動を行っていく場合と、空リースによってその場しのぎの金融の利益を得る場合とでは、主たる債務者による返済の確実性に相違があり、保証人の予測すべきリスクの範囲や質が違うことは明らかであって、リース契約の経済的実体が金融であるということから、その法形式が賃貸借であることや、右のような空リースの社会的実態を無視して、空リースについての保証を単なる金銭消費貸借契約の保証と同一視することは当を得ないものといわなければならない。

また、保証債務の付従性ということから、主たる債務が契約上の債務である以上、保証人は責任を負わざるを得ないとする見解もあるが、連帯保証人の意思表示は主たる債務者の意思表示とは別個の意思表示であって、保証債務に付従性があるからといって、連帯保証人が主たる債務者のなした空リースを理由に連帯保証契約の錯誤による無効を主張することが許されないと解すべき理由はない。

4  前記認定のとおり、被告らは、連帯保証をするに際して、本件リース物件を組合においてどのように使用するのか等についてAや甲野太郎に詳しくは確認していないが、そのことをもって被告らに重大な過失があったとまでいうことはできない。

5  したがって、被告らの連帯保証の意思表示は、錯誤により無効であると認められる。

四  以上によれば、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官峯俊之)

別紙<省略>

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